
脱炭素社会の実現に向けて日本国内でもさまざまな動きが加速しています。特に、工場や冷凍冷蔵倉庫など、大量のエネルギーを消費する施設に対しては、再生可能エネルギーの導入が強く求められるようになっています。
経済産業省は、省エネ法の省令改正により、2026年度から特定の事業者に対して屋根置き太陽光パネルの導入目標策定を義務付けるとしています。現在、太陽光パネルを設置していない事業者にとっては、今回の改正でどのようなことが義務付けられるのか、何から進めればいいのか不安に感じることも多いはずです。
そこでこの記事では、太陽光パネル設置に関する省エネ法改正について、経済産業省が太陽光発電の義務化に踏み切った背景や、具体的な内容、実際に太陽光発電を導入する場合に利用できる補助金の情報について解説します。
Contents
太陽光パネル導入目標策定が「義務化」される背景について
日本は、脱炭素社会の実現と経済成長を両立させる政策で、「2040年までに電源構成における太陽光の比率を23〜29%にする」という高い目標を立てています。
目標実現のため、省エネ法では、これまでも事業者に対して非化石エネルギーへの転換を求め続けていて、2023年度に提出された中長期計画書では、太陽光発電の導入を計画している事業者が3割超と最も多い結果となっています。
しかし、現状の太陽光発電の比率は9.8%と、先ほど紹介した目標と比較すると、大幅に遅れている状態になっています。そこで、「2040年までに電源構成における太陽光の比率を23~29%にする」という高い目標を達成するには、企業による取り組みをさらに加速させる必要があると考えた政府が、このタイミングで義務化に踏み切ったことが今回の改正の背景です。
太陽光発電の割合を一気に増やす方法としてはメガソーラー(大規模太陽光発電)の設置もあります。しかし、メガソーラーは、土地や適地に限りがあることから導入が難しくなるケースが多くなっています。実際に、全国各地でメガソーラーの設置に反対する住民活動に関する報道を見聞きする機会が増えているなど、今後はメガソーラーの導入がかなり難しくなるのではないでしょうか?
そこで、太陽光発電の割合を増やすための方法として、屋根の利活用が注目されています。日本エネルギー経済研究所の試算によると、日本国内の工場や倉庫、店舗と言った建物の屋根を活用した太陽光発電は、その発電量が年間で16〜48テラワットにのぼるとされています。これは、原発の2〜6基分の発電量に相当すると言われており、今後の国内太陽光発電拡大のカギになると指摘されています。
義務化の対象とスケジュールについて
今回、新たに義務の対象となるのは、省エネ法で定められた「特定事業者」であり、化石燃料を多く消費している事業者や施設が対象となります。
具体的には、原油換算で1年間のエネルギー使用量の合計が1,500kl以上の事業者が該当します。なお、工場や倉庫だけでなく、スーパーなどの商業施設や自治体の庁舎なども含まれています。
2026年から実施される導入目標策定の義務化については、全国で約12,000の事業者・施設が対象になるとされています。
義務化のスケジュールについて
今回の義務化は、2026年度と2027年度の2段階で施行されることになっていて、以下の流れで進みます。
- STEP0 2025年度内に省エネ法の省令・告示の改正
- STEP1 2026年度に屋根置き太陽光パネルの「設置目標の策定義務」が企業・自治体へ義務化される
- STEP3 2027年度に施設ごとの「設置可能面積・実績」の報告義務が開始
今回の義務化の実施は2026年度からです。2026年の第一弾で、「どれぐらい発電するか?」の目標を立てることからスタートします。なお、ここで立てた目標については、少なくとも5年に1度は見直しを行い、変更した際は報告が必要となります。
そして、2027年からは、実際にどれぐらいの太陽光パネルが設置できるか、もしくは既に設置したかを報告しなければいけません。この報告は、毎年行われ、虚偽の報告や違反行為があった場合は、50万円以下の罰金が科される可能性があります。
太陽光パネルの設置に利用できる補助金について
それでは、実際に工場や倉庫の屋根に太陽光パネルを設置する際に活用できる補助金制度についてもご紹介していきます。
補助金制度については、年度によって名称が微妙に変わったりすることがあるので、その点は注意しましょう。ここでは、2025年度の太陽光発電設置に係わる補助金をいくつかご紹介します。
令和7年度物流脱炭素化促進事業
一つ目は、物流事業者向けの太陽光発電導入に関わる補助金です。
倉庫などの物流施設において、物流の脱炭素化促進に資する取り組みを実施するため、水素及び、大容量蓄電池などを活用した再生可能エネルギー電気の利用に必要となる設備や、それらを利用する車両などの導入を行う事業に要する経費の一部を補助してもらうことができます。
太陽光発電など、再エネを活用した取り組みについては、補助率が1/2(1事業者当たり最大2億円)まで交付されます。
この補助金は、物資の流通に伴う環境負荷の低減を図ることが目的となっています。太陽光発電など、再エネを活用した取り組みの補助対象は以下の通りです。

引用:補助金資料より
補助金の詳細については、以下のページでご確認ください。
・令和7年度物流脱炭素化促進事業について
ストレージパリティの達成に向けた太陽光発電設備等の価格低減促進事業
この補助金は、名称が「ストレージパリティの達成に向けた太陽光発電設備等の価格低減促進事業(民間企業等による再エネ主力化・レジリエンス強化促進事業)」と非常に長いため、通称でストレージパリティ補助金と呼ばれています。補助金の内容としては、自家消費型太陽光発電および蓄電池の導入に活用できるものとなっているため、工場の屋根に太陽光パネルの設置を検討している事業者様は、ぜひチェックしておきましょう。
ストレージパリティとは、太陽光発電などを導入するときに「蓄電池(ストレージ/storage)」を使用する方が経済的なメリットが大きくなる状態のことを指します。この補助金は、ストレージパリティの達成に向け、自己所有やオンサイトPPAモデルなどによる自家消費型太陽光発電や蓄電池などの導入を行う事業の経費の一部を補助することで、設備の価格低減や再生可能エネルギーの導入および地域共生を加速化し、2050年カーボンニュートラルの実現に資することを目的としています。
ストレージパリティ補助金の詳細については、以下の資料をご確認ください。
・ストレージパリティ補助金の公募要領
まとめ
今回は、省エネ法改正による屋根置き太陽光パネルの導入目標策定義務化について解説しました。
この措置は、既存の「省エネ法」の枠組みを改正・活用する形で行われることになっています。これは意外に重要なポイントで、対象となる特定事業者は、既に省エネ法に基づいて、毎年エネルギー使用状況の報告義務を負っている状況です。政府は、既存の報告制度に新たな項目を追加することにより、事業者側の事務的負担を最小限に抑えつつ、新たな制度の導入をスムーズに進めたいのでしょう。
脱炭素社会の実現に向けた取り組みが急がれている中、企業はエネルギー使用量を削減する努力だけでなく、今後は使用するエネルギーの『質』を変えるための取り組みが強く求められるようになっていきます。
記事内でご紹介した太陽光発電など、再生可能エネルギーの導入に活用できる補助金制度も、ぜひ活用しながら使用するエネルギーの質の転換に向けた取り組みを進めましょう。
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1993年三和建設株式会社 入社 2022年同社執行役員就任
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施工管理歴13年、1級建築施工管理技士、建築積算士