
今回は、工場の増設・増築を検討している事業者様に向け、工事を進める際に大きなポイントとなる「遵法化」「適法化」の意味について解説します。
「遵法化」と「適法化」という言葉はニュアンスが少し異なります。適法化は、既存のものが法律に適合するように「是正する」ことを意味しており、遵法化は法律や規則などを「遵守する」という姿勢や行動のことを指します。
実築年数がある程度経過した既存工場の中には、工場の増設を検討した時に、「遵法化」と「適法化」が大きく関係してくることが多いです。そこでこの記事では、工場増設時の大きなポイントになる、遵法化と適法化について解説します。
Contents
工場の増設で遵法化と適法化が注目される理由
既存建物の遵法化や適法化については、特に既存工場での増改築の際に注目されるケースが多いです。なぜ工場の増設などで遵法化や適法化がキーワードになるのかというと、建設から時間が経過した建物は知らぬ間に、違反建築や既存不適格建築物になっている事が多いからです。ここでは、工場の増設時に遵法化や適法化が重要になる背景について簡単にご紹介します。
違反建築や既存不適格建築物とは?
遵法化と適法化を解説する前に、違反建築や既存不適格建築物がどのような建築物なのかを解説します。
まず、違反建築についてですが、これは建築基準法やこれに基づく法令・条令に違反した状態で建てられた建築物のことを指しています。例えば、建築物を建てる際には、建築基準法に基づいて、規定に適合しているか行政が審査をする建築確認と呼ばれる検査を受けます。しかし、その後、増築・改築を行い容積率や建ぺい率がオーバーしてしまったり、許認可を受けた用途とは異なる用途で建物を使用するといった場合、違反の対象となってしまうケースがあります。
これに対して、既存不適格建築物は、竣工時には法で定められた基準を守り、適法状態で建てられたにもかかわらず、その後の法改正によって「現行の法律」に適合できなくなった建築物のことを指しています。既存不適格建築物に関しては、建築時に違反したわけではないため、そのままの状態で建物を利用する限りは、問題なく継続利用することができます。
しかし、増築などを行う際には、増築部分だけでなく、原則として既存部分に関しても、現在の法律に適合するように遡及されるという決まりがあります。既存不適格建築物に関しては、遡及しなければいけない部分について、計画の内容によって緩和規定や優遇措置があるのですが、違反建築に関しては違反部分を是正してからでないと増改築ができません。
工場は違反建築が多い?
工場が違反建築物が多いとされる理由は、築年数がある程度経過した建築物は検査済証の取得率が低く、違反建築状態の建物が多くあることが要因です。
検査済証の取得は、建築基準法が施行された当初から義務付けられているのですが、実質的に検査済証の取得が義務化されたのは2003年以降と言われています。2003年以降は、金融機関が融資の際に検査済証の確認を求めるようになったため、現在では9割以上の建築物が完了検査を受けるようになっています。以下は、国土交通省が公表している完了検査件数の推移を示すグラフです。

引用:国土交通省資料より
現在では「建築する⇒確認済証を取得⇒完了検査」という工程が一般化しているため、「検査済証の取得率が低かった」と聞いても、本当なのか…と疑ってしまう人もいると思います。しかし、上のグラフから分かるように、平成10年においては検査率が約4割程度しかなかったというデータがあります。
このデータから読み取れるように、平成10年以前に建設された建築物に関しては、その半数以上が検査済証が未取得の状態です。もちろん、工場に限った話ではありませんが、築年数がある程度経過した既存建物の多くは、所定の手続きを踏んでいない違反建築物に該当している可能性があります。
特に工場については、高度成長期に多く建設され、現在でも現役として稼働している建築物が多いです。そして、それらの工場の多くが、修繕や更新の時期を迎えつつあるのですが、建設時期から考えると、高い確率で違反建築状態に該当しているため、増改築プロジェクトを進める際に大きな障壁として立ちはだかってくるのです。
この他にも、工場などの大規模施設では、運営していく中で違反建築になってしまうというケースも多いです。例えば、工場などの製造施設では、スペースが狭くなったので拡大したい、生産性を高めるため新しい生産機器を導入したいなどのケースは珍しくありません。しかし、一般的な工場の場合は「社内に建築のプロフェッショナルが不在である」ということから、地元の施工業者に増改築のみを依頼し、建築的な遵法性を担保せずに増築してしまうということが良くあります。工場内には、生産に関するプロフェッショナルはいるものの、一級建築士などの建築のプロは在籍していないため、違法性に気付けないのです。大企業であれば、社内に建築関連の担当者を確保しているケースもありますが、中小企業の場合は、生産に関係のない人材を確保しておくことは難しく、その結果、気付いたときには違反状態になっていたというケースが考えられます。
遵法化と適法化の意味について
ここまでの解説で、工場の増設時に遵法化や適法化が注目される理由を解説しました。ここからは、遵法化と適法化の意味について解説します。
遵法化とは
冒頭でご紹介したように、遵法化は法律や規則を遵守する姿勢や行動を指しています。法律を守るという意識や行動全般を指す言葉であるため、適法化よりも広い意味で使われることが多いです。
建築物においては、建築基準法を始めとしたさまざまな関連法規に適合するよう、建物を改修・是正することを指しています。例えば、建物の用途変更や増改築、不動産の売買を行う際に、法的な問題を洗い出し、それをクリアにすることを意味します。
先程紹介したように、築年数が経過した工場などについては、そもそも検査済証が取得されていないなど、違反状態になっているケースも多いです。そのため、まずは遵法性調査により問題点を洗い出し、その結果に基づいて、必要な改修工事や設計を行います。既存不適格建築物の場合は、既存部分を活かしつつ、法に適合するように改修が実施されます。
遵法化されていない建物は、利用者の安全を脅かす可能性があるため、不動産価値が低く見積もられるケースも多いです。そのため、遵法化は、建物の安全性や価値を高めるためにも重要な取り組みとなっています。また、『コンプライアンス(=法令順守)』が重視される昨今では、企業として不可欠な取り組みです。
適法化とは
適法化は、既存のものが法律に適合するように是正することを指しています。違法建築物や既存不適格建築物について、現行の法令に適合させることで、安全で快適な状態にすることを目的としています。
例えば、検査済証を取得していない建物が建築確認申請を行い、検査済証を取得する、建築物の用途を変更する場合、用途変更の申請を行う、増改築を行う際、現行の法令に適合させるといった具体的な取り組みを適法化と言います。
適法化は、既存建物について、現状の問題点を法律に適合させるという、より具体的な行動を伴うことが多いです。
まとめ
今回は、工場の増設時に注意すべき「遵法化」と「適法化」の意味について解説しました。「遵法化」と「適法化」については、最終的に現行の法律に適合させるという取り組みであることは同じですが、厳密には異なります。
築年数が経過した工場などは、時代背景などが要因となり、所定の手続きが行われておらず、違反状態になっているケースが少なくありません。また工場などは、竣工当時は適法状態であったものの、長い年月を経ていく中で、間仕切変更や増改築などが行われたり、所有者が変わることで用途が変更されたりすることも珍しくありません。そしてその過程で、本来必要な確認申請手続きがなされていない、法に適合した形での増改築が行われていないなどというケースもあるようです。
昨今では、コンプライアンスが非常に重視され、遵法化や適法化が求められるようになっています。生産性の向上や利便性の向上を目的に行った増改築で、意図せず法に適合しない状態になってしまうこともあるため、工場の増設を考えた時には、建築のプロフェッショナルへの依頼が必要です。
三和建設では、工場の増改築はもちろん、軽微な修繕では軽視されがちな機能検証・構造検証・法的検証も、言われた通りに改修するのではなく、改修工事の妥当性検証力、ゼネコンならではの工事計画力、豊富な実績に基づく様々なアイデアを発揮したご提案が可能です。
工場の修繕や、増改築をご検討の事業者様は是非お気軽にご相談ください。

1993年三和建設株式会社 入社 2022年同社執行役員就任
改修工事はお客様の要望(生産との調整や予算)に応じて、段階的に工事を進めることも可能です。
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施工管理歴13年、1級建築施工管理技士、建築積算士