鉄は引張って使え

鉄はコンクリートと並び代表的な建築構造材料である。今回はこの鉄の有効な使い方について私見を述べる。

断面力スケッチ.jpg

建築構造設計では柱・梁などの部材を1本の棒として考える。その棒に働く力としては、曲げ力・圧縮力・引張力などがある。

鉄はコンクリートと比べて強度が高いため(おおざっぱに言えば一桁違う)、部材のプロポーションはスリムになる。そのため、部材を圧縮材として使う場合(たとえば柱)には座屈に注意する必要がある(座屈とは、力を加えていくと突然これまでとは違う方向に変形する現象を言う)。ひとたび座屈が生じると、部材は本来持っている断面性能を十分に発揮できないばかりか、これまで負担していた力を突然負担できなくなり、建物全体にとっても非常に好ましくない状態となる。よって、座屈を防ぐために部材のプロポーションを太くするか、座屈を拘束する部材を新たに設ける必要がある。

座屈スケッチ.jpg

曲げ材として使う場合(たとえば梁)にも断面内に圧縮力が生じるので、やはり座屈に注意する必要がある。さらに同一断面内で圧縮力と引張力が反転するため、つまり力がゼロになる部分が生じるため、断面を十分に活用しているとは言い難い。

一方、引張り材として使う場合(たとえば引張筋かい)には座屈の心配は一切なく断面性能を十分に発揮できる。

以上より、鉄は引張って使うのが最も「うまい」使い方と言える。このことを端的にあらわした建物がイギリスのノーマン・フォスターという建築家の手がけた「英国ルノー社部品配送センター」である。鉛直荷重、地震荷重、風圧力に対して引張材を多用して抵抗する構造形式である。ちなみにノーマン・フォスターは他にも「香港上海銀行」、「ハーストタワー」など構造フォルムを前面に出した建物を多数手がけている。

英国ルノー.jpg

ノーマン・フォスターのようにとはいかないまでも、構造部材を少しでも「うまく」使って設計したいものである。

 

谷 直人





  • 2010年1月29日